ニュース

SAPジャパンがSAP Business AIの最新情報を説明 4つの階層によってAI戦略を展開

 SAPジャパン株式会社は23日、SAP Business AIに関する製品戦略などについて説明した。

 SAPジャパンは、すべてのSAPクラウドソリューションにAIを組み込む方針を示しており、SAP Business AIを、SAPのさまざまなアプリケーションで動作させることができるようにしている。

 SAP Business AIを構成するのは、デジタルアシスタントとしての役割を担うAIコパイロット「Joule(ジュール)」、SaaSのなかに生成AIの機能を組み込んで提供する「組み込みAI機能」、ユーザーやパートナーがカスタマイズし、独自エンジンを開発できる「AI Foundation」、パートナー各社とのコラボレーションによる「AI機能提供における連携パートナー」であり、4つの階層によってAI戦略を展開していることを強調した。

SAP Business AI 全体像

 中でも、2023年9月にリリースしたJouleは、SAPのクラウドエンタープライズポートフォリオ全体に組み込まれ、幅広いSAPのソリューションポートフォリオと、サードパーティのソースから、プロアクティブでコンテキスト化されたインサイトを提供。複数のシステムからのデータを迅速に分類し、文脈を整理し、よりスマートなインサイトを提示することができる。安全でコンプライアンスに準拠した方法で、業務を迅速に遂行することが可能で、より良いビジネス成果を生み出すことを支援するという。

 すでに、SAP SuccessFactorsやSAP Startでの提供を開始し、SAP S/4HANA Cloud Public Editionでは、EAC(Early Adopter Care)プログラムを対象に機能の提供を開始しているところだ。

Joule アーキテクチャ概要

 SAPジャパン ビジネステクノロジープラットフォーム事業部長の岩渕聖氏は、「Jouleのアーキテクチャでは、SAPが有している業務に関するコンテキストやデータ、システム情報を読み込ませて連携し、ユーザーの入力内容に応じて、より適切なシナリオや知識情報を絞り込むことができるのが特徴である。SAPが持つアプリケーションに関するノウハウがJouleを動かしている」とした。

SAPジャパン ビジネステクノロジープラットフォーム事業部長の岩渕聖氏

 また、SAPジャパン カスタマーアドバイザリ統括本部SAP Business AI Leadの本名進氏は、「Jouleは、SAPの操作感を大きく変えるものになる。これまでのUIは古さを感じたり、使いにくかったりということが指摘されてきたが、Jouleによって、自然言語で問い合わせ、指示をすることができるようになる。Jouleによって、これまでのSAPとはまったく異なる操作環境を実現でき、まさにユーザーアシスタントの役割を果たすことになる。さらに、シナリオごとに、より適切な生成AIエンジン(LLM)を使い分けることができるほか、ビジネスコネクタを通じて、バックエンドのSAPアプリケーションとシームレスに接続することもできる」などと説明した。

SAPジャパン カスタマーアドバイザリ統括本部SAP Business AI Leadの本名進氏

 説明会のなかで行ったデモンストレーションでは、Jouleを通じて、「アクションを起こすべき3つのプロジェクトを教えてほしい」と聞くと、それに該当するものを抽出して表示して分析。サマリーをまとめた情報を、ほかの社員と、簡単に共有できることを示した。

 すでに公開されているJouleのロードマップでは、2024年4月以降に、SAP S/4HANA Cloud private editionやSAP Integrated Business Planning、SAP Integration Suiteへの対応が予定されており、将来は、SAP AribaやSAP Concur、SAP Signavio、SAP Build Apps、SAP Build Process Automation、SAP Analytics Cloudなどでも利用できるようになる。

Joule サポートロードマップ

 一方、JouleをはじめとするSAP Business AI全体のシナリオ数は、現時点で80個以上となり、中でも、Joule in SAP SuccessFactorsでは、すでに利用可能なシナリオが約30個あることを紹介した。

 SAP Business AI全体の今後のロードマップでも、さまざまなアプリケーションへの組み込みが進み、各種業務を実行することが示されており、「2024年内だけでも、新たに49個のシナリオをリリースすることが予定されている」(SAPジャパンの岩渕氏)という。

 さらに、AI Foundationでは、Generative AI Hubにより、さまざまなLLMを選択して活用できる機能を搭載。ユーザーは、SAPとの契約の上で、安心した形で、自由に選択したLLMを活用できることも示した。

 SAP Business Technology Platform(SAP BTP)におけるAIの取り組みとしては、2024年2月にSAP Analytics Cloud Just Askをリリースしている。分析する際に自然言語で質問することで、テキストで回答したり、グラフやチャートを自動生成したりといった機能を提供し、分析結果を回答してくれる。今後は、SAP S/4HANA内モデルへの直接アクセスも計画しているという。

 2024年3月にリリースしたSAP HANA Cloud Vector Engineは、ベクトル化した非構造データを格納し、類似性検索で用いたり、汎用LLMが持たないコンテキスト情報を取り入れたりすることで、生成AIの回答の質や信頼度の向上に寄与することができるという。

 またSAP Build Codeは、Java Scriptを自動的に生成するとともに、カスタムアプリのデータモデルやビジネスロジックを迅速に構築できるのが特徴だ。手間のかかるテスト用サンプルデータも自動生成できることから、単体テストの実行までの時間を大幅に短縮。ビジネスユーザーだけでなく、開発者やAIエンジニア、データサイエンティストの利用にも適しているという。

SAP BTP x AI:最新リリース情報

 今後の機能強化については、「SAP BTPでは、開発の現場、プロジェクトの現場においても、多くの機能をリリースしていくことになる」とし、SAP Datasphereに取り込まれたデータから、データ間の関係性を表すオントロジーを自動生成するSAP Datasphere ナレッジグラフや、Jouleに自動化の要件やシナリオを相談すると、ワークフローや RPA の定義済みコンテンツから、適切なものを探して自動提案するJoule for SAP Build Process Automation、Jouleを活用した自然言語での指示だけで、チャートやダッシュボードの作成、分析やシミュレーションを実行するJoule for SAP Analytics Cloudを提供することにも触れた。

SAP BTP x AI:Future Roadmap

 さらに、Open SAPで提供している生成AI関連コースの受講者数は3万人以上、SAP SuccessFactors Learningに埋め込まれたAIによって、1カ月間に提案された推奨ラーニングは420万以上になっていることなども示した。

 最近の大きなトピックスとしては、2024年3月に発表したNVIDIAとの協業がある。両社で共同開発したRAG機能を提供するとともに、SAP S/4HANA Cloud やSAP SuccessFactors、SAP Signavioに組み込む生成AIシナリオの追加および強化において連携。SAP Datasphereを介した連合型機械学習(FedML)のアクセスや機械学習のワークロードの高速化、SAP BTPによる生成AI機能やアプリの開発において、NVIDIAのAIファウンドリーサービスを使用したLLMのファインチューニング機能を提供する。

NVIDIAとの協業

 SAP Business AIの国内における今後の取り組みとして、「SAPの既存のパートナーを軸にした展開」、「既存顧客に向けた支援と具体的なユースケースの提示」、「製品の壁を越えたイニシアティブ化」の3点を掲げた。

 SAPジャパンの本名氏は、「SAPのパートナーでは、AIを組み込んだソリューションの提案だけでなく、自らのプロジェクト管理に対してAIを組み込むといったことを開始している。また、毎年開催しているSAP BTP Hackathonイベントでは、今年はBusiness AIに力を注いでいる。43社320人以上が参加する予定であり、AIレディのパートナーが日本でも立ち上がることになる。さらに、イノベーション拠点として、日本で初めて、大分市にAppHausを開設した。SAP BTPを使ったプロトタイプやプロジェクトを実施し、AIを活用したユースケースの創出に取り組んでいくことになる」と述べた。